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研究室は質の高い研究を真剣に行い、学術論文として最新の重要な知見を世界に発信する場です。そこで、研究を行うためには、少なくとも以下の様々な能力が必要であると考えています。まず第一に重要な問題に気付いて仮説を立て、それを解明するための最良の方策を考え抜いて適切な実験をデザインする発想力。思い通りに物事が進まなくても中途半端に投げ出さずに問題解決する対応力と、辛抱強く取り組む忍耐力。あらゆる角度から柔軟にデータの解析を行い、各データを組み合わせて一つの大きな主張を持った論文・プレゼンテーションに仕上げる論理的思考力。そして、人真似ではない研究を自らの力で発展させていく!という高い志向上心。これらの能力は、研究に限らず社会において責任を持って仕事を行っていくうえで共通して必要なことだと思いますので、学生さんが研究室での生活を通して、これらの能力を体得してくれることを願っています。

そのために、学生さんには段階に応じて少なくとも下記のことを達成してもらうことを目標とします。第一段階(学部生程度)として、自身の研究テーマの内容・重要性・面白さを理解し、根気強く正確に再現性のある実験を行える。第二段階(修士課程程度)として、指導の下で研究テーマを主体的に進めることができる。第三段階(博士課程程度)として、研究テーマを自らの力で発展させ、指導の下で最後まで諦めずに遂行(一定基準以上の国際学術雑誌に公表)することができる。

研究者(研究室で行う実験は学生実習や体験教室ではありませんので、学部生・大学院生も1人の研究者として扱います。学生さんの出すデータも学術論文として世界中に公表することになるので、学生だからこの程度でも良いという妥協や、いい加減なことは許されません)には第一に主体性を重んじます。もちろん必要な実験技術や考え方は指導・助言しますし、志と意欲のある人には出来る限りのサポートをしますが、最終的には本人次第です。少しでも早く実験を行って一日でも早く結果を知りたい!、少しでも面白い研究になるように日々真剣に考えて自身のプロジェクトを発展させる!という本人の強い意欲と努力が不可欠です。同時に、グループとして集団活動するための協調性や責任感も求めますが、研究の進め方やデータの解釈などに関しては、教員や学生の区別無く、積極的に自分の意見を忌憚なく発言して欲しいと考えています。定期的なProgress Report、Journal Club、個別meetingや、日常の話し合いなどを通じて議論を行っています。

想像力を働かせて思いついた独自の面白いアイデア・仮説を実験により検証し、巧くいかなければまた別の方法を考えて試したり様々な人々と議論することによって問題を順に解決していく、という創意工夫を重ねる研究・学問の過程を楽しんで欲しいと思います。実際に、あらゆる可能性を想像して議論することが、最も面白く楽しい時間だと私は思います(更にそれを自らの手で実験をして調べることができれば最高です)。それが最終的に脳神経科学の大きな問題を解明して世界的に評価され、社会に貢献することになれば、これ以上の悦びはありません。

しかし、残念ながら思い通りに順調に進まないのが現実です。このような状況を克服できるかが、その人の真価が問われる時です。他力本願や責任転嫁して放棄するのでは無く、問題解決に向けて自身で真剣に考えて試行錯誤することが不可欠です。まずは自力で何とかするという強い意志と努力が必須ですが、全てを1人の力で解決する必要はありません。研究室の教員や先輩・後輩達と相談・議論して知恵を出し合い解決するというコミュニケーション力やチームワークも重要です。

研究課題の選定は、純粋に面白く、尚かつ記憶・学習を含む認知脳機能のメカニズムの理解の進歩に重要であると考えられる課題を十分に協議のうえで行います。一部の専門家しか興味を持たない研究ではなく、実際に脳内で起きている現象が目の当たりにできるような、生命機能の本質に迫る研究を目指します。

研究課題の選定に際して、自分の人生の少なくとも数年の時間を懸けるに値するものであるかどうかをよく考えてみて下さい。そのためには、既に公表されている他人の論文や話・流行に影響されて類似した問題を後追い・真似したり、結果が出やすく論文になり易いという目先の理由で決めるよりも、まずは自ら「なぜだろう、一体どうなっているのだろう??もし明らかになれば面白そう!」と結果を知るのがワクワクするような素朴な疑問を思い描いて下さい。その方が、本質的かつオリジナリティのある研究になることが多いと思います。また従来の手法では解明することができなかった重要な問題に取り組むための画期的な技術・手法の開発も強く推奨します(最先端であれ既存の技術を習得することを主目的とする課題は認めません)。

ある程度具体的な課題を思いついたら、類似した研究が既に公表されていないかどうかをPubMedなどを用いて徹底的に調べます。もし存在すれば諦めて他の課題を考える、あるいは未だ残された重要な問題があるかどうか、次に何を明らかにすれば大きな進展が得られるかを熟考することにより、新たな面白い課題が見つかることも珍しくありません。

課題が決まれば、見出した問題・仮説に対して、直接的な答えを出すための具体的な研究手段・計画を立てて下さい。たとえ重要な問題を見出すことができても、これがデザインできなければ研究として成り立ちません。そのためには、多様な分野の話や論文等から知識やアイデアを得たり、計画に重大な欠陥や見落としがないかどうかを周囲の人々と徹底的に議論や相談することも必要となります。この段階をおろそかにしたまま行き当たりばったりで実験を開始しても、多くは時間と研究費、尊い動物の命の無駄になります。

実際に研究を始めると、予想と異なる結果が出ることも珍しくありません。そのような場合も、得られたデータの意味をしっかりと考えて解釈することにより、新たな疑問が湧いてきます。状況によっては研究テーマを柔軟に変更する決断も必要となります。

以上は研究課題の選定法の一例ですが、実際に適切な研究課題を見つけて実験をデザインすることは意外と難しいものです(研究で最も重要で難しい部分かもしれません)。大事なのは、探究心を持って自分の頭で真剣に考え、調べ、試行錯誤してもがきながら何らかの答えを導き出してみることです。少なくとも、常にこのような習慣を付けて欲しいと考えています。